自家製麺キリンジが物価高騰を生き抜く現場の記録
2006年12月の開業から今年で20年になる。
結論から書く。原価は待っていても下がらない。だから原価そのものを作り変えた。仙台・東北で唯一のかすラーメン専門店として、自家製麺とあぶらかすで局地戦を続けている。
#2026年春、仕入れが変わった
リーマンショック、震災、コロナ禍。仕入れが荒れた時期は何度もあった。だが2026年春は性質が違った。値段が上がるだけでなく、物が市場から消えかけた。
ホルムズ海峡の緊張でナフサ供給が絞られ、容器・ラップ・潤滑油が店頭から消えた。丼の釉薬は30〜50%値上がりした。鶏肉と豚肉の価格は逆転した。緑茶は世界的な抹茶ブームで200〜350%高騰した。
#大資本と戦わない。武器を一本に絞る
個人店が大資本チェーンと同じ土俵に立てば、すり潰される。うちの経営判断は『孫子の兵法』『ランチェスター戦略』『マーケティング22の法則』の3冊でしか濾過しない。弱者が強者に勝つための生存の幾何学だ。
ランチェスターとマーケティングの鉄則は、真正面の消耗戦を避けて局地戦に持ち込むこと。大資本が最新設備と高級食材で空中戦を仕掛けてくるなら、うちは戦場と武器を絞る。
ゴールドラッシュで儲けたのは金を掘り当てた者じゃない。シャベルとつるはし、作業着を売った商人だ。戦場で求められるのは一撃の破壊力じゃなく、汎用性・継戦能力・コストという実用性。
うちの主武装は牛の小腸の脂と水分を抜いて旨味を凝縮させた関西発祥の保存食、あぶらかす。かつて廃棄されていた部位を使い尽くす「全体利用」から生まれたソウルフードだ。一杯の丼の中で出汁を引き、香味油をまとわせ、具材にもなる。三役をこれ一つでこなす。ガラも出さず廃棄ゼロ。
高級食材には浮かれない。泥臭くて実戦的な素材を選ぶ。自家製麺と合わせて、仙台での空白地帯を確保し続けている。
#価格は原価の積み上げじゃない。変化量で決める
価値とはスペックじゃない。使うことで相手の世界がどれだけ変わるか、その変化量だ。一杯食べて、顧客の日常がどう変わるか。それが価値になる。
価格も相場から決めない。もたらす変化量から逆算する。実行コストが下がり続ける時代に「安く大量に」で勝負すれば、体力勝負で死ぬ。うちは大きな変化量を設計し、証明した上で正当な対価をもらう厚利少売を目指す。
SNSの使い方も変えた。「いいね」を押し合うだけの遊びからは降りた。AIで誰でも文章を量産できる時代に、馴れ合いに時間を使うより本を読んで数字を計算する方が合理的だ。
# 店裏の空きスペースを畑に変える
AIの進化で知識と実行のコストはゼロに近づく。情報収集も分析もAIがやる。誰でも安く速く実行できる世界で、価値が残るのは物理的な現実の泥臭さと、自分の手で循環を作る体験だ。
店裏の陽の当たらないデッドスペースを、菌床椎茸の畑に変えた。4年目。1体60g、販売単価20,000円/kg相当で、実質利回り50%を出している。椎茸は干すだけで旨味も単価も倍になる。保存も利く。
使い終わった廃菌床と、店から出る有機ゴミ(米ぬか、卵殻、煮干しの出汁殻)を壊れた寸胴で熱処理して肥料にする。この土で生姜を育てる。省スペースで縦に伸びる性質を使い、計算上の利回りは約2400%。
廃棄物からゴミを減らし、肥料にして野菜を育てる。新しいものを外から買わず、手持ちの死に地と副産物を使い切る。店の中で資源を循環させる。これが物価高騰に抗うロジスティクスだ。
#まとめ
麺は自分で打つ。椎茸と生姜は自分で育てる。あぶらかすで出汁を取り、余すことなく使い切る。手の届く範囲に置く選択の積み重ねが20年だった。
大資本の画一的な消費に飲み込まれないためには、純粋なロジックを持って局地戦を続けるしかない。3冊の兵法書は、何を捨て何に集中すべきかを教えてくれる。
2026年。北四番丁の狭い塹壕で、土の匂いとデータを頼りに、一杯のラーメンの準備を今日も整えている。
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### よくある質問
Q. あぶらかすラーメンは仙台のどこで食べられる?
北四番丁の自家製麺キリンジ。東北で唯一のかすラーメン専門店。
Q. あぶらかすとは何か?
牛の小腸の脂を揚げて旨味を凝縮させた関西発祥の保存食。出汁・香味油・具材の三役を兼ねる。廃棄無し。
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