物価高騰の時代に個人飲食店が生き残るための生存戦略|20年続けて見えてきた3つの考え方

近年、インフレや円安、原材料価格の高騰によって、多くの飲食店が厳しい経営環境に置かれています。仕入れ値は上がる一方なのに、お客様にそのまま価格転嫁することも簡単ではありません。一筋縄ではありませんし、きれいごとはだれでも言えます。

「値上げをするべきか。」
「利益を削って耐えるべきか。」
そんな悩みを抱えている経営者は少なくないでしょう。
私も仙台で「自家製麺キリンジ」を2006年に開業して以来、リーマンショック、東日本大震災、新型コロナ、そして現在の物価高騰まで、さまざまな局面を経験してきました。
その中でたどり着いた答えがあります。
「待っていても原価は下がらない。だったら原価の仕組みそのものを変える。」
この記事では、私が実際に店舗で続けてきた取り組みをもとに、個人飲食店が大資本のチェーン店と戦わずに生き残るための考え方を紹介します。

1. 大資本とは戦わない。「一点集中」で勝負する
飲食店の経営は、よく戦争に例えられます。
資本力のある企業は、広告費も人材も設備も豊富です。同じ土俵で勝負すれば、個人店が不利なのは当然です。
だからこそ必要なのが、「どこで戦うか」を決めることです。
『ランチェスター戦略』でも、弱者は局地戦で勝つことが重要だとされています。
メニューを増やし過ぎたり、流行を追い続けたりすると、限られた資源が分散してしまいます。
私は「あぶらかす」という食材に集中しました。
あぶらかすは、牛の小腸をじっくり揚げて脂と水分を抜き、旨味だけを凝縮した大阪・南河内発祥の食材です。
東北では扱う店が少なく、他店と真正面から競争する必要がありません。
「どこでも食べられるラーメン」ではなく、「ここでしか食べられないラーメン」を目指した結果、自然と独自性が生まれました。

2. 最新の武器より、長く使える「シャベル」を持つ

1848年のカリフォルニア・ゴールドラッシュでは、金を掘り当てた人だけが成功したわけではありません。
むしろ、採掘に必要なシャベルや作業着を売った人たちのほうが、安定した利益を得たと言われています。
派手な武器よりも、長く使える頑丈な道具を持つ。
この考え方は飲食店にも当てはまります。
私にとって、その「シャベル」があぶらかすでした。

あぶらかすは具材になるだけではありません。
出汁として旨味を出し、香味油として香りを加え、最後は具材として食べてもらえます。
シャベルは塹壕戦で穴も掘れる、接近戦で武器にもなる。盾にもなる。
戦場で最も強い接近戦用武器は何か。たぶんこれにはいくつか答えが出てくるかと思うです。
銃?ナイフ?ライフル?シャベルです。それは歴史が証明しています。
一つで何役もこなす点として、あぶらかすも、一つの食材が何役もこなしてくれるため、無駄が少なく、廃棄もほとんど出ません。
高級食材を次々と取り入れるよりも、一つの食材を徹底的に使い切るほうが、個人店には向いていると私は考えています。

3. 原価は待っていても下がらない。だから自分で作る
物価高騰は、自分の努力だけでは止められません。
だから私は、「買う」だけではなく「作る」ことを増やしました。
店には、使われていないバックヤードや物置など、活用されていないスペースがあります。
私はそこを菌床椎茸の栽培場所にしました。
収穫した椎茸は干し椎茸にも加工でき、保存性が高く、食品ロスもほとんどありません。
さらに、使い終わった菌床や米ぬか、卵の殻、煮干しの出汁殻などはコンポストで堆肥化しています。
その堆肥を使って、生姜やニラなどを育てています。
「廃棄物を減らす」ことが目的ではありません。
廃棄物を資源に変える仕組みを作ることが目的です。
店から出るゴミを減らしながら、次の食材を育てる。
この循環が少しずつ原価を支えてくれています。

4. AI時代だからこそ「実体験」が価値になる
AIを使えば、文章も企画も簡単に作れる時代になりました。
便利になった一方で、「知識」だけでは差がつきにくくなっています。
だからこそ価値が残るのは、実際に経験したことです。
私は毎日麺を打ち、店に立ち、椎茸を育て、堆肥を作っています。
そうした積み重ねはAIには代わりにできません。
お客様が求めているのも、単なる商品ではなく、その店だから生まれる体験やストーリーです。
価格は原価だけで決まるものではありません。
「この店だから食べたい。」
そう思ってもらえる価値を積み重ねることが、これからの個人店には必要だと感じています。

おわりに
物価高騰の時代に、個人飲食店が大資本と同じやり方で戦う必要はありません。
私が20年近く店を続けてきて感じるのは、重要なのは次の3つです。
- 勝てる場所に集中すること
- 一つの資源を徹底的に使い切ること
- 外部に頼り過ぎない仕組みを少しずつ作ること
派手な経営戦略ではありません。
ですが、小さな改善を積み重ねることが、結果として店を長く続ける力になります。
インフレや原材料価格の上昇は、これからも続くかもしれません。
だからこそ、「何を買うか」ではなく、「今あるものをどう生かすか」という視点を持つことが、個人店にとって最も現実的な生存戦略だと私は考えています。

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