「カス」とは何か。なぜこの食材は長年、表に出てこなかったのか。
あぶらかすを食べたことがある人間でも、その来歴を知っている人間は少ない。うまい食材には、たいてい深い背景がある。あぶらかすも例外ではない。
- あぶらかすが生まれた場所と時代背景
- なぜ長年「隠れた食材」だったのか
- かすうどん・カスラーメンの全国普及の経緯
- 東北・仙台に届くまでの話
あぶらかすの発祥——大阪府南河内、羽曳野と藤井寺
あぶらかすの発祥は大阪府南河内地方、現在の羽曳野市・藤井寺市周辺とされる。古墳が点在するこの地域は、古代から食肉・皮革加工の産業が根付いていた場所でもある。
明治時代以降、近代的な屠畜場が整備されると、牛の解体に携わる人々の間で「ホルモン」の利用が広まった。ホルモンとは本来「捨てるもの」——内臓や腸。それを「放るもん(投げ捨てるもの)」と呼んでいたという説が有力だ。
あぶらかすは、その中でも小腸を使う。生の小腸を大鍋でじっくり炒り、脂を絞り出した残りが「かす」だ。捨てるはずのものから、うまみの塊が生まれた。
大阪ではあぶらかすはスーパーで手軽に買える食材だ。しかし東北のスーパーには並ばない。その地域差が、仙台でカスラーメンを食べられる店がキリンジだけという現実をつくっている。
あぶらかすが長年「隠れた食材」だった理由
あぶらかすが広く知られるようになったのは、実はここ20〜30年の話だ。それ以前は、南河内の特定のコミュニティの中だけで受け継がれてきた食材だった。
その背景には、日本の被差別部落の歴史がある。食肉・皮革の産業に携わってきた人々は、長らく社会的差別の対象とされてきた。その暮らしの中で育まれた食文化は、外に出ていきにくかった。あぶらかすも、その一つだ。
この問題に正面から向き合ったのが、作家・上原善広だ。大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したルポライターで、被差別部落の食文化・食材を丁寧に記録してきた。被差別部落の食文化を「そこでしか生まれ得なかった価値」として記録した人物だ。
差別の歴史と食文化は切り離せない。そしてその食文化は、過酷な歴史があったからこそ、独自の深みを持つに至ったとも言える。
かすうどん・カスラーメンの全国普及——B級グルメブームが転換点
あぶらかすが大阪全土に広まる転換点が、1990年代以降のB級グルメブームだ。地域の「隠れた美味」が見直される流れの中で、かすうどん・カスラーメンが表舞台に出てきた。
大阪府内ではかすうどんの専門チェーン「加寿屋」がフランチャイズ展開を開始。「かすうどん」という言葉が定着し、ふるさと祭り東京などのイベント出店を通じて首都圏でも認知が広がった。
かすうどんとカスラーメンの違い
| かすうどん | カスラーメン | |
|---|---|---|
| 主な提供地域 | 大阪・全国FC展開 | 大阪・一部全国/東北は仙台のみ |
| 使う食材 | あぶらかす(同じ) | あぶらかす(同じ) |
| 知名度 | 西日本では定着 | 全国的にはまだ希少 |
| 東北で食べられる店 | なし | 自家製麺キリンジ(仙台)のみ |
東北・仙台に届くまで——自家製麺キリンジという例外
それでも東北は空白地帯だった。
東北6県のラーメン文化は厚い。しかしあぶらかすを使う店は、現時点で確認できない。仙台・自家製麺キリンジが唯一の例外だ。
なぜキリンジがあぶらかすを使い始めたのか。理由はシンプルだ。うまいから。そして、この食材の背景にある食文化への敬意があるから。店内に上原善広の著作が3冊置いてあるのは、その表れだ。
あぶらかすは「捨てるもの」から生まれた。差別された人々の知恵と技術が生み出した食材だ。その来歴を知った上で食べると、一杯の重みが変わる。
→ カスラーメンとは?あぶらかすラーメンが食べられる店【仙台・東北唯一】(注文方法・テイクアウト情報はこちら)
店舗情報・アクセス
📍 宮城県仙台市青葉区二日町15-15 第二石原ビル101
🚇 仙台市地下鉄南北線「北四番丁駅」徒歩約2分
🕐 営業時間:11:00〜14:00頃 / 17:00〜20:00頃
🗓 定休日:木曜日
🌐 jikaseimenkirinji.com
✉️ jikaseimen@gmail.com
来歴を知った上で、食べに来てほしい。
木曜以外、待っている。

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