手が離せない厨房のための、無料の音声キッチンタイマーを作った話

音声キッチンタイマー 厨房 ワンオペ あぶらかす

製麺の生地を延ばしている最中に、味玉の茹で上がりを知らせるタイマーが鳴ったことがある。手は生地と粉まみれで、スマホの画面には触れられない。ワンオペなので、代わりに見てくれる人もいない。仕方なく肘で操作しようとして、案の定うまくいかず、鳴りっぱなしのアラームを聞きながら生地を延ばし続けた。あの数十秒は、今思い出しても妙に長く感じる。

ワンオペ厨房で「手が離せない」という悩み

厨房では、こういう場面が一日に何度もある。手が濡れている。手が生地で塞がっている。両手がふさがったまま、次の作業に移らなければならない。しかも一人でやっている以上、誰かに「ちょっと見ておいて」と頼むこともできない。市販のキッチンタイマーは、ボタンを押すという前提で作られている。その前提が、そもそもワンオペ厨房の現実と合っていないのではないかと思うようになった。

複数のメニューを同時に仕込むときは、なおさらだった。カスラーメンのこってりとあっさり、油そば。それぞれ茹で時間も仕上げのタイミングも違う。ひとつずつ手入力していては、その間に別の鍋が噴きこぼれる。だったら、話しかけるだけで動く音声タイマーを作ればいいのではないか。そう思い立ったのが去年の終わり頃で、形になったのは今年の七月だった。

声だけで動く、無料のキッチンタイマー

最初のうちは、まともに動かなかった。換気扇の音や、来客対応で発する言葉に反応して、勝手にタイマーが立ち上がることが何度もあった。「タイマー」という言葉から必ず話し始める決まりにしたのは、そのせいだ。誤作動を防ぐための、いわば合言葉である。メニュー名の聞き取りも、最初は「カスラーメン」を何度も違う言葉に聞き間違えた。実際に厨房で一人で使いながら、直しては使い、直しては使いを繰り返した。

実際の使い方

いらない多機能が増えてる昨今。このタイマーの使い方は至って、シンプルだ。

今、同じ場面が来るとどうなるか。生地を延ばしながら、手を止めずに「タイマー、カスラーメン十分」と言うだけでいい。画面を見に行く必要もない。「あと何分」と聞けば、鍋から目を離したまま答えが返ってくる。二品同時に仕込んでいるときは、名前と時間を並べて一度に話しかければ、両方いっぺんに動き出す。鳴ったアラームは「タイマー、ストップ」のひと声で全部止まる。あの日、肘でボタンを押そうとしていた自分に、今の状態を見せてやりたいくらいだ。

ダウンロード不要、15言語対応

道具として仕上がってきた頃、自分だけで使うのはもったいない気がしてきた。同じように一人で厨房を回している店は、他にもいくらでもあるはずだ。ダウンロードも登録もいらない。ブラウザを開いて、話しかけるだけで今日から使える。日本語の他に15言語に対応しているので、外国人スタッフがいる厨房でも使えるはずだ。売ることも考えなかったわけではないが、ラーメンの原価計算ツールを公開したときと同じで、困っている厨房の役に立てば、それで十分だと思っている。

無料の音声キッチンタイマー「Hands-Free Kitchen Timer」は、今もこの店の厨房で、一人、毎日鳴っている。同じように手が塞がる誰かの厨房でも、同じように鳴ってくれたらと思う。

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