原価表をつけ始めたのは、いつ頃からだったか正確には覚えていない。最初はノートに手書きだったものが、いつの間にかスプレッドシートになり、今は自分で作った原価計算ツールで動かしている。数字の管理は好きな方だと思う。それでも、原価が上がったからといって、すぐに値段に反映できるかというと、話は別だ。
カスラーメンは長らく八百六十円でやってきた。この値段を覚えてくれている常連が何人もいる。値段を上げるというのは、単に原価と利益のバランスを調整する作業ではなく、その人たちとの約束を書き換えるような感覚がある。
小麦粉が上がり、豚肉が上がり、揚げ油も上がった。あぶらかすそのものの仕入れ値も、ここ数年でじわじわ上がっている。一杯あたりの原価を積み上げていくと、利益がほとんど残らない月も出てきた。それでも、値上げを決めるまでに、かなりの時間がかかった。

決め手になったのは、値段ではなく人件費だった。原材料費だけを見ていると、多少無理をすれば据え置ける。だが、厨房に立つ時間に対して見合う対価を払えているかを計算し直したとき、このままでは続けられないと気づいた。値上げは、材料のためではなく、続けるための値上げだった。
告知を出す前の晩、何を書こうか随分迷った。値上げの理由を細かく説明しすぎると言い訳がましくなるし、簡単に済ませすぎると軽く見られている気がする。結局、事実だけを短く書いて出した。反応は思ったより静かだった。何人かは「やっと上げたか」と笑って言ってくれた。値段を据え置くことだけが、店への信頼を守る方法ではなかったのだと、そのとき初めて分かった気がする。
今も原価表は毎月更新している。次にまた値上げが必要になる日が来るのかどうかは分からない。ただ、そのときはもう少し早く決断できる気がしている。
自分で原価を試算してみたい方は、ラーメン原価図鑑というツールをこのサイトで公開している。食材の単価と使用量を入れるだけで、一杯あたりの原価とカロリーが出てくる。


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